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連合「愛のカンパ」助成事業

地域三世代子育て支援

シニアと一緒に楽しく食べる

WAC食育事例報告


子どもの食事について、さまざまなことが問題になっています。
好き嫌いが激しい子がいるのは昔からのことですが、最近特に目立っているのが「食べ物をかめない子」「食べる量が極端に少ない子」「朝ご飯を食べない子」などです。極端な小食や朝食をとらないことが原因で、体がだるくなり元気が出ない、ちょっと転んだだけで骨折してしまう、学校で貧血を起こしたりするなどの健康問題が起きています。
一方で、日本の食事を取り巻く環境は変化しており、高カロリー・高脂肪の手軽な食品が食卓に並ぶようになり、小学生なのに大人のかかる生活習慣病(肥満、高血圧、高脂血症など)にかかる子どもも激増しています。ほかにも、食物繊維の不足や運動不足から過度の便秘症に悩む子がいたり、食事のリズムが一定でないため下痢と便秘を繰り返す子などの問題が指摘されています。
このように日々の食事が、子どもたちの健康に影響をおよぼしていると感じられることは数多くあります。成長期の子どもたちの健全育成を支援するには、規則正しい食事の習慣を身につけ、自分の健康を守り、心を豊かにするような食生活を送る能力を身につける「食育」が重要です。
かつて子どもたちの食習慣は、家庭の中で保護者が「食育」などと意識せず身につけさせました。しかし、加工品や冷凍食品の普及で、出汁をとり、魚を三枚におろし、泥のついた野菜を洗って朝昼晩の三食を手づくりするということが、今やほとんどなくなってしまいました。
それは一面では便利なことです。また生活習慣も変化し、保護者の生活は食事以外のことで忙しくなってきています。目先を変えるには、加工食品や冷凍食品、外食なども良いのですが、三度の食事をレトルト食品で済ますなど食事と健康のつながりを意識していなかった例も見受けられました。
こうした中で、悪い食習慣についてお説教や強制をしても、効果は期待できません。「食事は楽しいものだ」ということを体感してこそ、正しい食習慣は身についていくのです。
例えば、身近な食材を使って子どもも保護者も一緒に料理を作ったり、地域の伝統的な食事をみんなで味わい、味覚を豊かにする機会を提供することで、子どもたちが自ら食生活を改善するよう促す働きかけ活動が必要です。
そうした活動の担い手として最適なのがシニアです。戦後、日本の食事を世界一栄養バランスのとれた食事にした立役者はシニアでした。伝統的な和食の中に、適度に洋食を取り入れ、日本の食卓を作ってきたのが今のシニア層です。日本が世界一の長寿国になったのは、バランスのとれた多品種・多品目の食事のおかげとも言われています。加えて、高齢になったシニアにとっても、自分たちの持っている食文化を伝承でき、多世代で食事を楽しむ喜びも味わえることになるのではないかと思います。
健康な食生活を自然に身につけているシニアが働きかけ、子どもや保護者などの若い世代に対し、地域で「食育」を行っていったらどうかと考え、社団法人長寿社会文化協会では連合「愛のカンパ」助成金事業として、シニアが子どもたちに正しい食事をする機会を提供し、子どもたちを健全育成する食育研究事業を平成15年度に実施しました。
研究事業に協力してくれた11団体は、それまでの活動を生かしながら地域の多世代の住民とのふれあいの中で、料理、後かたづけを含めて、食事を楽しむ会を行なっています。また、地域の伝統食をメニューに取り入れたり、地元農家と連携して収穫にまで関わる実体験を通し、「食」の大切さ、「食」についてのさまざまな情報を学ぶ場にもなっています。さらに、保護者と共に楽しむイベントでは、子どもたちだけでなく、保護者に対しても「食」のあり方を見直す良い機会を提供できたと考えています。
「食」の楽しさを感じるためには、楽しく、おいしく、栄養バランスの良いものを食べることです。それには、自分で料理に関わること、大勢の人と一緒に食べることが効果的だと言われています。
今回、イベントに参加してくれたシニアも一人で食べる食事は味気なく、気をつかわなくなり、自分で料理するのがおっくうになったりして、ともすれば貧しい食生活になりがちです。それが、地域の人たちや子どもたちとふれあうことにより、食事が楽しくなったことは間違いのないところです。また、シニアの持っている伝統食の知識や調理技術などが、今回の研究事業で十分に発揮されたことと思います。
子どもたちにとっても、地域のさまざまな年齢の大人たちと共に食べる食事は、新鮮で楽しい体験であったことは想像に難くありません。料理の準備から後かたづけまで、自分で関わることにより、食事を自ら作る楽しみを実感できた子どもたちも多かったことと思います。こうした調理・収穫体験は、食べ物・食事の価値を実感する豊かな機会となったに相違ありません。
人間の味覚は幼少期に形作られます。食習慣もまた同じです。このような試みを通して、食事を楽しみながら、さまざまな味や人とふれあう経験を持つことは、子どもたちの味覚や食習慣を豊かなものにしていく一助になると考えています。

内容

事例報告

1. 「手をつなご」 …東京都練馬区
土曜のお昼は、お父さんと子どもたちで一緒にオリジナル・レシピ
2. 地域とハンディをつなぐ会「じょいんと」 千葉県習志野市
障害を持つ子も一緒に料理、みんなで味わう
3. WAC「わかやま」 和歌山県和歌山市
子どもも大人も高齢者も共に「和歌山の味」を楽しむ
4. 「片浜地区ボランティアグループ」 静岡県沼津市
地域のベテランに教えてもらいながら、昼食をつくって食べる
5. コラボ21のボランティア実施先「杜の家」 愛知県名古屋市
懐かしい昭和の食事風景を再現した「名古屋の和み食」会食会
6. ネットワークステップ「西山自然教室」 京都府長岡京市
ドングリを植え、パンを焼き、七草粥の材料を探すところから
7. 「わんぱく隊」 愛媛県北宇和郡
材料のサツマイモを植えることからはじめて、郷土料理を作る
8. 「ひよこひろば」 岩手県紫波郡
異年齢の子どもたちみんなで作業しながらクリスマス・お正月
9. 育児と老人のデイサービス「なかよしクラブ」 千葉県船橋市
親子でわいわい楽しんだ、ふれあい鍋パーティー
10. 「出羽かたらいの会」 島根県邑智郡
料理も遊具も手作りし、野趣あふれる遊びを楽しむ
11. 痴呆対応型グループホーム「ひなたぼっこ」 山口県大島郡
畑仕事、おいしい食事、子どもたちとの交流で生活自立度が高まる

参考資料

食育イベントに役立つ 全国の「郷土料理・食材」
日本女子大学家政経済学科 高増雅子

A4判 84ページ(25ページ分はカラーページ)
価格 2,000円(送料・税込み)

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